村上春樹の作品の中には、単行本未収録のため入手困難な短編や中編がいくつかある。
2023年4月に長編『街とその不確かな壁』が刊行されたのを機に、その原型となっている1980年の中編「街と、その不確かな壁」など、単行本未収録の3作がそれぞれ掲載された雑誌や書籍を探してみた。
古い雑誌や書籍の入手方法
過去の雑誌(バックナンバー)や絶版となった本を読むには、一般的に以下の方法がある。
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国立国会図書館
最も確実。直接来館して閲覧・複写するほか、遠隔複写サービスも利用できる。
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その他の図書館(市町村、都道府県、大学など)
あなたのアクセス可能な図書館に所蔵があれば、最も楽な方法だろう。
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古本
流通量によるが、今回取り上げる3つはいずれも希少で、売っていたとしても高価である。
今回探した3作は、いずれも b(その他の図書館)で手に入れた。
「街と、その不確かな壁」
『文學界』1980年9月号(34巻9号)所収
2023年4月発売の『街とその不確かな壁』とほぼ(「、」以外)同タイトルの中編で、40年以上前の『文學界』に発表された。
僕は今回、所属する大学の図書館に所蔵があることを確認し、保管場所の書庫に通してもらった。
禁貸出の資料なので、館内コピー機で「街と、その不確かな壁」のページをコピーした(私的使用であれば著作権第30条の範囲内になる)。
「BMWの窓ガラスの形をした純粋な意味での消耗についての考察」
『IN★POCKET』1984年8月号(2巻8号)所収
近くの図書館になかったため、都道府県立図書館の郵送複写サービスを利用した。
初めて利用したのだが、自宅から電子申請システムで申し込むことができた。
料金を支払うと、その日のうちに発送され、数日後に複写が到着した。
村上春樹はこの作品を短編集や『全作品』に収録しなかった理由として、
思い切って書きなおしてみようかとも思ったのだけれども、正直に言って手のつけようがなかった。作品のカラーそのものが他のものとは大きく異なっていて、しっくりと馴染まないのだ
と語っている。
冒頭では『グレート・ギャツビー』からの引用が導入として用いられ、「ニック・キャラウェイと同様これまでにずいぶん不愉快な思いをしたり不都合な立場に立たされたりした」経験のひとつが本作で描かれることになる。
「人間として持つべきつつしみに対するセンスというものは」とニックは語っている。「きちんと万人平等に付与されているものではないのであって、その事実を忘れてはより大事なことを見失ってしまうはずだと、僕は今もなお肝に銘じているのである」
ストレートな作風は短編「沈黙」を思わせるものがあった。
「中断されたスチーム・アイロンの把手」
安西水丸著『POST CARD』(1986年、学生援護会)所収
市町村の図書館にあり、貸出も可能だった。
ナンセンスな内容だが、ふたり(村上さんと安西さん)の仲の良さが伝わってくる。